今年3月の東京オリンピックでも話題でしたがランニングシューズ界ではここ数年ほどNikeの「厚底シューズ」がとてもホットです。
ナイキの厚底シューズ「禁止」報道、五輪マラソン代表選考に広がる「不安と影響」
僕自身も走るのが好きで去年も2回フルマラソンに出場したのですがNikeの厚底シューズと呼ばれるヴェイパーフライを愛用しています。1番最初に履いたときは厚底にとっても違和感があり、「こんなので走れるの?怪我しないかな?」と不安でしたが今ではむしろ厚底シューズじゃないと走れないカラダに。高校時代は陸上部だった僕ですがランニングシューズといえば「軽くて底が薄い」が常識だったのに対して、軽さはキープしつつも厚底であるシューズに当初は違和感を覚えたのは事実です。
そんなNikeの厚底シューズは単に厚底なだけではなく、上のリンクにもある通りでタイムが速くなるという魔法のシューズとなっており、現在(2020/6時点)のマラソン世界記録保持者でもあるエリウド・キプチョゲもこの厚底シューズを愛用しています。「たまたまキプチョゲが凄かっただけでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんので現時点の男子マラソン世界記録のTOP10を見てみたいと思います。
男子マラソン世界記録トップ10
位 | タイム | 氏名 | 所属 | 大会 | 日付 | 厚底着用 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2時間01分39秒 | エリウド・キプチョゲ | ケニア | ベルリン | 2018/9/16 | ○ |
2 | 2時間01分41秒 | ケネニサ・ベケレ | エチオピア | ベルリン | 2019/9/29 | ○ |
3 | 2時間02分37秒 | エリウド・キプチョゲ | ケニア | ロンドン | 2019/4/28 | ○ |
4 | 2時間02分48秒 | ビルハヌ・レゲセ | エチオピア | ベルリン | 2019/9/29 | ○ |
5 | 2時間02分55秒 | モジネット・ゲレメウ | エチオピア | ロンドン | 2019/4/28 | ○ |
6 | 2時間02分57秒 | デニス・キプルト・キメット | ケニア | ベルリン | 2014/9/28 | |
7 | 2時間03分03秒 | ケネニサ・ベケレ | エチオピア | ベルリン | 2016/9/25 | |
8 | 2時間03分05秒 | エリウド・キプチョゲ | ケニア | ロンドン | 2016/4/24 | |
9 | 2時間03分13秒 | エマニュエル・ムタイ | ケニア | ベルリン | 2014/9/28 | |
10 | 2時間03分13秒 | キプサング・キプロティチ | ケニア | ベルリン | 2016/9/25 |
1番右の列に厚底シューズを履いていたかどうかを追加していますが1~5位は厚底シューズを履いており、ほぼ独占状態に。ちなみに厚底シューズの登場が2017年となっており、6位以降は物理的に厚底シューズを履くことが不可能でした。また、厚底シューズが出るまでの世界記録は上の表の6位にあるキメットが持っている2時間02分57秒でしたが、2018年にキプチョゲに破られて以降、その前世界記録が合計5回も破られいてることになります。ここで2000年以降の世界記録の変遷を見てみます。
2000年以降の世界記録の変遷
年 | 世界記録 | 選手 | 所属 | 大会 | 短縮タイム |
---|---|---|---|---|---|
2002年 | 2時間5分38秒 | ハヌーシ | アメリカ | ロンドン | |
2003年 | 2時間4分55秒 | テルガト | ケニア | ベルリン | 43秒 |
2007年 | 2時間4分26秒 | ゲブレシラシエ | エチオピア | ベルリン | 29秒 |
2008年 | 2時間3分59秒 | ゲブレシラシエ | エチオピア | ベルリン | 27秒 |
2011年 | 2時間3分38秒 | マカウ | ケニア | ベルリン | 21秒 |
2013年 | 2時間3分23秒 | キプサング | ケニア | ベルリン | 15秒 |
2014年 | 2時間2分57秒 | デニス・キメット | ケニア | ベルリン | 26秒 |
2018年 | 2時間1分39秒 | エリウド・キプチョゲ | ケニア | ベルリン | 1分18秒 |
2000年初頭の世界記録は2時間5分38秒でしたが、現在(2020/6)の世界記録は2時間1分39秒となっており、20年弱で3%ほどタイムが速くなっています。また、これまでの世界記録更新はおおよそ30秒前後のタイム短縮がメインでしたが、2018年のキプチョゲが厚底シューズで世界記録を更新した際にはなんと前回よりも1分以上縮めるという過去の世界記録更新事例を見ても例のない記録でした。
世界の主要大会でもNikeが席巻
現在マラソンにはワールドマラソンメジャーズという世界の主要大会、具体的にはボストンマラソン・ロンドンマラソン・ベルリンマラソン・シカゴマラソン・ニューヨークシティマラソン・東京マラソンの6大会をポイント制で競うシリーズがあるが、2019年のこれら6大会の男子優勝者は全員厚底シューズを履いていました。
Nikeが破った2時間の壁
Nikeは「Breaking2」というプロジェクトに数年前から取り組んでおり、その内容は名前の通りで「2時間切りを達成する」というものになっています。1回目の挑戦では惜しくも25秒足りなかったのですが、昨年に非公式ではありますが見事2時間切りを達成しました。
キプチョゲが非公式ながら人類初のフルマラソン“2時間切り”を達成 「ナイキ」の“超”厚底シューズが足元を支える
非公式の名の通りで内容を見れば絶好の条件が揃っており、まだまだ懐疑的な目があるのも事実ではありますが、今までマラソンの2時間切りは不可能と言われていたことを考えるとかなり革新的な出来事とも言えます。あとは絶好の条件を揃えて公式記録で2時間切りを達成するのみとなりました。
テクノロジーでどこまでスポーツは進化するのか?
今回取り上げたNikeの厚底シューズもそうですが、このブログでよく取り上げている野球のトラックマンやラプソードなどテクノロジーが進化したことで今まで見えていなかったものが可視化され、選手の技術力の向上に繋がっている例がたくさんあります。また、トレーニング方法や栄養管理なども進み、より効率的にフィジカルを鍛えることが可能になったり、選手の寿命が伸びてきているとも言われています。
一方で、今回紹介したNikeの厚底シューズのように「選手の能力を必定以上に増幅し、いわゆる不正ではないのか?」と言った声が聞こえてきているのも事実です。個人的にはテクノロジーが進化することでより多くの人が楽しく、さらには昔よりも効率的にかつ自発的にスポーツが上手くなれるのはとっても良い世の中だと思いつつ、どこまでが境界線なのかは今後よく考えてみる必要があるのかもしれません。