前回に引き続き今回もダルビッシュの2019年の徹底解剖になります。前回を読んでいない方はぜひこちらも合わせて読んでみてください。
ダルビッシュの2019年の全2848球を徹底解剖してみた Part.1
前回はシーズン通しての振り返りでしたが今回は「三振を奪ったときの投球」と「ホームランを打たれたときの投球」について振り返ってみたいと思います。
■三振を奪ったときの投球
まず前回も書いたとおりでダルビッシュが2019年に奪った三振の数は229個。つまりは229球分のデータがあることになります。その229球をまずは球種別で見てみたいと思います。
三振を奪ったときの球種
カットーボルが最も多く、次に4シーム、スライダーと続きます。前回も書きましたが個人的には決め球の印象が強いスライダーは15.3%ととカットボールの半分程度でした。そしてこれを見て面白いと思ったのが10.5%もあるナックルカーブ。次回に前半戦と後半戦のまとめで触れますがダルビッシュはナックルカーブは後半戦からしか投げていません。しかも同僚のキンブレルに教わったとのこと(笑)このナックルカーブが後半戦の好調にも少し寄与しているのでないかなーと思ったりしています。あとこのナックルカーブで三振を取りに行く率の高さも凄いことになっています。こちらの表をご覧ください。
決め球の割合
球種 | 三振を奪った数 | 全体での投球数 | 割合 |
カットボール | 77 | 1,040 | 7.4% |
4シーム | 40 | 763 | 5.2% |
スライダー | 35 | 392 | 8.9% |
2シーム | 24 | 334 | 7.2% |
ナックルカーブ | 24 | 59 | 40.7% |
スプリット | 18 | 108 | 16.7% |
カーブ | 7 | 138 | 5.1% |
チェンジアップ | 4 | 12 | 33.3% |
上記の三振を奪った229球のそれぞれの球種が全体の2848球の中でどれぐらいの割を占めているかというものです。これを見るとナックルカーブを投げたときの三振を奪う率の高さが他と比べて群を抜いています。なんとその割合は40.7%にも登ります。これよりナックルカーブは明らかに決め球として使っていたことがわかります。あとは全体的に落ちる系の球、スプリットやチェンジアップなどは投げた場合に三振を取れている率が高いのがわかります。やはりメジャーリーガーといえども追い込まれてからの落ちる球には苦戦しているのが伺えます。さて、ここまで球種を見てきましたので次は三振を奪ったときのコースを見てみたいと思います。
三振を奪ったときのコース
最も多いのは⑭の61球(=61奪三振)で、これは前回の全投球のコース別で最も多かったとコースと同じです。また、球種別を見たときにも落ちる系の球で三振が決まっている場合が多かったですのでこれについては納得です。全投球で2番目に多かった⑪はなんと三振を奪っている割合が最も低いコースになりました。ちなみに全投球で300球を⑪に投げていますが7割以上がボールとなっており、明らかに見せ球的に使っていたのがわかるかと思います。というより高めに投げる落ちる球とかもないのでストライからボールになる低めの球に比べればバッターも振りに来ないですよね…。あとはやっぱりど真ん中の⑤での奪三振が少ないのはメジャーの選手たちは甘いところは見逃さないというのが現れている結果かもしれません。次にこのとき、コース⑭に投げた球種も見ていきたいと思います。
コース⑭に投げて三振を奪ったときの球種
球種 | 三振を奪った数 | 割合 |
カットボール | 23 | 37.7% |
スライダー | 17 | 27.9% |
ナックルカーブ | 7 | 11.5% |
2シーム | 4 | 6.6% |
スプリット | 4 | 6.6% |
カーブ | 4 | 6.6% |
4シーム | 2 | 3.3% |
チェンジアップ | 0 | 0% |
カットボール、スライダー、ナックルカーブ、2シームと続きます。カットボールの割合は全体(229奪三振)の占める割合にほぼ近いですが、スライダーについては全体よりも10%以上高く、このコースではスライダーがうまく機能しているのがわかります。4シームや2シーム系は速球系で変化が少ないですのでバッターもここに来る速球系はボールとわかる場合が多いはずですので、見逃せばボールとなるコース⑭では速球系で三振を奪うのが難しいのがわかります。当然といえば当然ですがやっぱりボールからボールに見える球は振らず、ストライクからボールになる工夫をしないといけないということですね。
ここまでが「三振を奪ったときの投球」についてでした。続いては「ホームランを打たれたときの投球」について見ていきます。
■ホームランを打たれたときの投球
ダルビッシュが昨シーズン打たれたホームランの数は33本でリーグ全体6位の数字で、9イニングで打たれたホームランの数は1.66でリーグ全体4位の数字でやや多くホームランを打たれている傾向にあると言えます。とはいえ、今はフライボールレボリューションによってホームラン量産の時代(2019年は全体で四条西田の6,776本)に入っており、少し投手に不利な状況とも言えなくはないのでそこまで気にする必要はないのかもしれない。さて、そんな前置きもありつつ、まずはダルビッシュが打たれたホームラン33本の球種を見ていきます。
ホームランを打たれたときの球種
4シーム、2シーム、カットボール、スプリットという順番で続きます。前回の全2848球を見たときはカットボールが全体の36.5%を占めていましたが、カットボールはホームランで見ると1番ではなく、全体で2位だった4シームが最も打たれており、次に全体で4位だった2シームが打たれていることになります。それに比べるとカットボールやスライダーは全体の投球から見ればあまりホームランを打たれていないのがわかります。次に三振を奪ったとき同様にコースを見ていきます。
ホームランを打たれたときのコース
これは見れば一発というか非常にわかりやすく、真ん中のコース④/⑤/⑥に集中しており、この3つのコースで約半分以上のホームランを打たれています。対象的ににボール球である⑪/⑫/⑬ではホームランを1本も打たれておらず、メジャーの選手といえでもボール球をホームランにするのは難しいorボール球には手を出さないということがわかります。あとは②/⑦/⑧/⑨が同率となりますが、注目すべきは②だと思います。現在フライボールレボリューションによって高めの回転数が多い速球が有効、なぜかと言うとフライボールレボリューションはバットをボールの下に入れてフライを打つという作戦なので高めの速い球だとそれが難しいので有効というのが定説ではありますが、昨今はバッター側もその対策をしているという話をよく聞きます。現にダルビッシュが②に投げた3球いずれも4シーム、2シームで球速も全て150キロを超えているので甘い球、抜けた球が言ったという感じではないと思います。この辺りにMLBでのピッチャー、バッターのしのぎ合いを感じます。
ちなみにダルビッシュが打たれたホームランをバッター目線でまとめてみると平均の打球速度(初速)が104.4mph/h(≒168km/h)、打球角度が28.58度となっています。フライボールレボリューションによって生み出されたバレルといういわゆる長打やホームランが出やすいゾーンの定義に従えば、最低でも打球速度が158km/hが必要で、その際には打球角度26〜30度が条件となるのを見るとまさに当てはまっており、この数字にも納得が行きます。
また、ダルビッシュは33本のホームランのうち2本以上ホームランを打たれたのは2人しかおらず、1人がデビッド・ペラルタ(ダイヤモンドバックス)で、もう1人がアリスティデス・アキーノ(レッズ)。ペラルタは2019年シーズンは12本しかホームランを打っていないのでダルビッシュはある意味お得意様な形に。アキーノはご存じの方も多いと思いますが、2019年シーズンがほぼ初のメジャーにも関わらず、1試合目でホームラン、さらには4試合連続ホームラン、1試合3ホームランと59試合で19本塁打というシーズン後半戦の目玉にもなった選手でした。あとはダルビッシュがYoutubeで凄いバッターのうちにアキーノを挙げていたのでそれも少し納得いったりと。
以上が「ホームランを打たれたときの投球」についてでした。少し長くなりましたが今回はここまでです。次回は2019年シーズン前半のダルビッシュはあまり成績が良くなかったですが、後半はまさにMVP級の活躍をしており、前半戦と後半戦の投球内容の違いについて見ていきたいと思います。