ダルビッシュの2019年の全2848球を徹底解剖してみた Part.3

  • 2020年5月1日
  • 2020年5月1日
  • Baseball

前回、前々回に続いて今回もダルビッシュの2019年の徹底解剖になります。前回を読んでいない方はぜひこちらも合わせて読んでみてください。

ダルビッシュの2019年の全2848球を徹底解剖してみた Part.1

ダルビッシュの2019年の全2848球を徹底解剖してみた Part.2

Part.1と2では年間通しての成績に触れてきましたが2019年のダルビッシュは前半戦と後半戦では別人のような成績を残しており、後半戦はまさにMVP級の活躍でした。そこで今回は前半戦と後半戦の投球内容の違いを見ていきたいと思います。

■後半戦サマリー

成績

期間 試合数 先発数 勝利 敗戦 投球回 奪三振 与四球 防御率
通年 31 31 6 8 178.2 229 56 3.98
前半戦 18 18 2 4 97.0 111 49 5.01
後半戦 13 13 4 4 81.2 118 7 2.76

通年、前半戦、後半戦の成績は上記となっています。勝利数が大きく増えているわけではないが、まず注目すべきところは防御率の大幅な改善。前半戦は5点台とイニングイーターでも少し微妙な数字ではあったが後半戦は2点台後半と大幅な改善が見られます。後半戦の防御率だけで言えばフラハティやデグロームなどもっと良い選手がいるのは事実だがダルビッシュもかなりの上位に入ってくるのは間違いないと思います。

では冒頭で述べたMVP級の活躍というのはどこを指していっているのかというと与四球の数に注目してください。前半戦は97イニングに対して47個でしたが、後半は81.2イニングに対してわずか7個となっています。しかも凄いところが奪三振の数も落ちていないところ。与四球が数値の上でも劇的に改善されているのがわかりますが、他の選手と比べてその凄さを見てみたいと思います。

後半戦のダルビッシュの指標で2つほどリーグ全体で見てもトップとなっているものがあります。
1つ目は9イニングあたりの奪三振数でダルビッシュは13.00で2位のビューラー(ドジャース)の11.72に1個以上の差をつけています。
2つ目はK/BBと呼ばれる四球を1個出すまでには三振をいくつ奪ったかという指標です。上原がとっても優秀なのは有名な話かと思います。ダルビッシュのK/BBは16.86で2位のバーランダー(アストロズ)が9.80となっており、かなりの大差をつけています。しかもバーランダーに…。

これを見るとダルビッシュの後半戦の絶好調さは「四球が少なくなったまま奪三振数をキープできた」ことが原因とも言えます。

ではなぜそのようなことになったのかを投球内容から見てみたいと思います。

■投球内容の差分

前半戦と後半戦の球種の違い

                          
球種割合(前半) 平均球速(前半) 回転数(前半) 割合(後半) 平均球速(後半) 回転数(後半)
カットボール34.1% 87.1 2716.039.8% 86.7 2581.1
4シーム29.0% 93.7 2526.723.8% 94.6 2532.7
スライダー 15.9% 82.7 2754.610.8% 81.8 2669.9
2シーム14.6% 93.5 2307.57.8% 93.4 2210.6
カーブ3.7% 76.5 2638.76.4% 75.1 2524.3
スプリット2.2% 88.3 1510.1 6.0% 88.7 1399.7
チェンジアップ 0.4% 84 1323.6 0.4% 83.5 1318.6
スローボール 0.1% 63.8 2295.0 0.1% 63.6 2226.0
ナックルカーブ 4.9% 80.8 2738.4

※球速はマイル表示です。

まず球種の変化を見てみると前半戦はカットボールが最も多く34.1%を占めていましたが後半戦も同様にカットボールが最も多くの割合をしめており、さらに比率は39.8%と上昇しています。一方で4シーム、スライダー、2シームは後半戦になると全て5%前後下がっており、徐々にカットボールの割合を高めていったことが伺えます。事実、データ的には4月から徐々にカットボールの割合が上昇してき、9月ではこのデータにある通りで40%を超えていたとのことです。

また、4シーム、スライダー、2シームが全て5%ずつ割合が下がっているにも関わらず、カットボールの割合は5%程度しか上がっていないので他の球種が増えているはずです。増えている球種としてはカーブ、スプリット、さらには前回の奪三振の際にも言及しましたがナックルカーブが後半戦から新しい球種として加わっています。さらにナックルカーブは三振を奪うときの決め球としても機能していたのは書いた通りです。

球速と回転数についても見ておきたいと思います。球速については今回のデータを見る限りではどの球種においても平均球速の大幅な変化は見られず、球速という点では大きな変化はなかった様に見受けられます。一方で、回転数についてはカットボールが回転数を減らしており、球質を変化させているのがわかります。おそらく曲がりが少なく、より手元で曲がるように調整を掛けているはず。

こうやって見ると打ち取れる(調子の良い)カットボールの質を変えてかつ割合を増やしつつ、落ちる球(カーブ、スプリット、ナックルカーブ)を効果的に使っていったのが後半戦の復調の1つの要因かと思います。

次に今まで同様に投げているコースについても見てみたいと思います。

前半戦と後半戦のコースの違い

数値の左が前半戦の割合、右が後半戦の割合となります。

コース別の増減を見ると⑪と⑭が大きく減り、⑥と⑫と⑬が増えているのがわかります。少し面白い点としては減った⑪と⑭が対角線上にあり、⑫と⑬も対角線上にあるということでしょうか。ちなみに①-⑨のストライクゾーンへの投球については前半が50.5%だったのに対して、後半が53.0%なので全体的にストライクゾーンに集まりつつ、以前よりも上手くバラけている(⑪-⑭の割合変化)のがわかるかと思います。

冒頭に与四球が減ったというのを書きましたがストライクゾーンへの割合が著しく上がっているわけではないことを見ると、ダルビッシュの球質と配球が良くなり、後半戦は成績が改善したとも言えそうです。

長いシーズンの中でこのようなアジャストが出来るのは素晴らしいことですし、何よりもMLBはワールドチャンピオンになってなんぼという感じがありますので前半飛ばしすぎよりも後半につれて徐々に調子を上げていき、プレーオフで大活躍というのが最も望ましいかと思います。とはいえ2019シーズンで言えばこの活躍がもう少し早く出来ていればというところはありますが…。

常に進化をし続けるダルビッシュには2020シーズンも注目です。何よりも早く開幕して欲しい!

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